お金で動く人。好き嫌いで動く人。


このツイートを見たとき、僕も第三者からはそう見えているかもしれない、と感じた。でも私は、「好き嫌いにも理由はあるはず」、「理由が分かれば行動原理も読めるよな」と考えて、自分の好き嫌いの理由を掘り下げてみた。私は自他共に認めるNXP好きなのだけれども、その「好き」には理由があるはずだ。この理由をちゃんと書き出しておくことは有意義だと思うので、まとめてみようと思う。

まず、僕は本職(ここではメーカーにお勤めの方を前提とする)の人とエコシステムが違う。
例えば、僕は100個、せいぜい1,000個を前提に部材を選定する。特定の部材の100円の違いが、1万円や10万円にしかならない。すると何が起きるかというと、部材の選定基準が違ってくる。その部材を選定することで、開発や量産にかかる手間が1〜2日短縮できるなら、ペイできる。つまり、100円くらいの単価違いはそれほどにまでは重要ではない。むしろ、手間が短縮できることが重要になる。

対して、本職の人は数万個は作る事を前提に部材を選ぶのだろう。このとき、最終的に数百万円や数千万円の違いになる。すると、自分の工数が1ヶ月延びようが、十分にペイできることになってしまう。

こういう話になると、半導体メーカーの人とか商社の人はサポートの手間がとかいう話を持ち出してくる。でも、大抵のMakerは、半導体メーカーに(半導体メーカーの人が想像するような)サポートを求めてなんかいないと思う。Makerが求めているのは、自分で考えるのに参考になる情報の提供であって、トラブルを代わりに解決してもらったり、代わりに考えてもらうことではないはずなのだ。考えるのが楽しいのに、楽しいことを他人に押しつけたくなぞないのだ。つまり、半導体を買った人が手っ取り早く情報を取り出せるWebを用意してくれ、それでも見つけられないときに情報への矢印を素早く見せてくれるだけでいい。

僕がNXPを好きなのは、(最近はそうでもないのだけれども)データシートが読みやすく、かなり的確な矢印を手早く渡してくれる中のクマ人がそこに居たからだったりする。NXPの中のクマ人がイケてるのは、たったこれだけ(って言っちゃ失礼ですよね)のことを着実に実行しているからだと思う。個々の情報提供が製品の数万個の売上に直結してはいないけれども、草の根というかバイラルマーケティングという仕組みがここで出来上がっていると思っている。少なくとも日本で、NXPと同様にCortex-Mを採用しているマイコンメーカーの作例がSNSに露出される機会より、NXPのマイコンが露出される機会が多いのはこういう理由だと思う。つまり、「好き」というのは、情報を得やすいということに支えられている。

僕はどうも熱くなってると思われがちなんだけれども、それには理由がある。

本職の人は、プロダクトがどうなろうが、仕事に対する対価が手に入る。つまり、自分が設計や開発したものが10個しか売れなかろうが、10,000個売れようが、3年間売れ続けようが、3ヶ月でディスコンになろうが、給料として対価が手に入ることが担保されている。つまり、淡々と仕事(他人事)と割り切ることができるのは、そのあたりにあると思う。

対してMakerについて、本職の人に比べると品質要求なんかが甘いので手間が少ないのは前提なんだけれども、それでもMakerだって手間暇かけて何かプロジェクトを進めているわけだ。そこで得たいものは人それぞれなんだろうけれども、それが何であれ、筋が通らないことで妨害されれば頭にくる。筋が通らないとき、本職の人はお金(数万個の発注とか、今後の取引)を引き合いにだして淡々と対抗することができるのだけれども、Makerにはそれができない。すると残された手段は、筋が通らないんじゃないですかと世間に問うということしかなくなる。それが公開書簡の理由であって、「嫌い」とされる理由でもあると思う。

まとめると、僕の好きの理由は「情報の入手しやすさ、コミュニケーション活動」で、嫌いの理由は「筋が通らないこと」でした。

おしまい。


「お金で動く」について書いていなかった。

僕がお金で動くか動かないかで言うと、お金でも動きます。ただし、数万円数十万円じゃ動きません。小銭に縛られて自分のやりたいことができなくなるのが嫌なので、たぶん300万円以上くらいじゃないと、興味の無いことでは動かないと思います。でも現実的には、300万円を僕に渡して何かをしてくれって依頼してくる人なぞ居ないので、動かないと言ってもいいのかも。